Fukushima Nuclear Disaster

 福島原子力災害を経た原子力のあり方

夢が破れた「もんじゅ」は廃止

2016.06.23

 

夢の原子炉ともてはやされていた高速増殖炉「もんじゅ」の夢は破れた。夢が破れ、存在意義を失った「もんじゅ」を廃止する時期が来た。

 

科学的にも、経済的にも存在価値を失った「もんじゅ」を廃炉することなく、いつまでも延命する理由は何であるのか?

 

核兵器製造に役立つ高純度プルトニウム(Pu-239)を得るためなのか?

 

「もんじゅ」が計画され、建設工事が進行していた頃、高速増殖炉は夢の原子炉と言われ、大きな期待を集めていた。残念ながら、その夢は過大宣伝であった。利点だけに目を奪われ、不都合な課題に目を向けようとしなかった。21世紀の現在、「もんじゅ」が担っていた夢は完全に破れている。

 

Monju View

図1 もんじゅの遠景

もんじゅ画像集から転載

 

廃止する理由

 

(1)ダブリングタイムは90年

消費したプルトニウムよりも多くのプルトニウムを生産する。その結果、ウラン資源を数十倍も有効利用することができるとされていた。

 

しかし、「もんじゅ」が順調に稼動したとしても、消費した量の2倍のプルトニウムを生産するために要する時間、ダブリングタイムは90年と長い。90年稼働し続けた後に、ようやくもう一基の「もんじゅ」相当の原子炉に供給するプルトニウムを得るという計算である。

 

「もんじゅ」は原型炉だから90年もかかるけれども、商用の大型高速増殖炉ならばダブリングタイムがずっと短いのだろうか?商用高速増殖炉の電気出力を100万kWと仮定すると、この出力は「もんじゅ」の28万kWの約4倍である。

 

核燃料炉心を取り囲む劣化ウランブランケットの中で生成されるプルトニウム(Pu-239)量はブランケットを照射する中性子数に比例する。中性子数は炉心の核分裂反応数に比例し、核分裂反応数は電気出力に比例する。

 

Monju Nenryou Shuugoutai

図2 「もんじゅ」の炉心構成

資料:高速増殖炉燃料の実例(原型炉「もんじゅ」用燃料)

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=04-09-02-05

 

100万kWの高速増殖炉は「もんじゅ」の4倍のプルトニウムを生成するが、他方で100万kWの商用原子炉は4倍の核燃料を必要とする。その結果、高速増殖炉の規模を大きくしても、プルトニウム量を2倍にするダブリングタイムは90年のままであり、増殖スピードが速くなることはない。

要するに、高速増殖炉のプルトニウム増殖スピードは極めて遅く、しかも高速増殖炉を90年も稼働させることは技術的にほぼ不可能である。

 

(2)MOX燃料はリサイクルが困難

高速増殖炉の目的は、原子炉の核燃料を濃縮ウラン(U-235濃度が3〜5%)からプルトニウム(Pu-239)に置き換えることにある。これによって、ウラン資源を数十倍も有効利用することができると言う夢が語られていた。

 

天然ウランあるいは劣化ウラン(U-235を濃縮した後に残るU-235濃度の低いウラン)の酸化物にプルトニウム酸化物を混ぜた金属酸化物燃料(MOX燃料)が製造され、高速炉あるいは熱中性子炉で利用される。

 

その際、原子炉を高出力で長期間運転するために、プルトニウムの混合割合を4〜10%にする。しかし、プルトニウムを使い切るまでMOX燃料を燃焼することはできず、使用済みMOX燃料にはプルトニウムが残る。

 

残されたプルトニウムの濃度が高いと、プルトニウムが硝酸に溶けにくくなり、使用済みMOX燃料は再処理が難しくなる。

 

そうなると、使用済みMOX燃料からウランを分離して再利用するというリサイクルのシナリオが崩れてしまう。ウラン資源の有効利用が絵に描いた餅となる。

 

(3)Pu-239の純度が高すぎる

「もんじゅ」では、劣化ウランのブランケットで生成されるプルトニウム-239の同位体純度が98%と非常に高い。このプルトニウムは核兵器転用に適したものであり、慎重な臨界管理が要求される。

 

「もんじゅ」では1994年4月の初臨界から1995年12月に発生したナトリウム漏洩事故までの1年半の期間に約60kgの高純度プルトニウム-239が生成されたようだ。これだけの高純度プルトニウム-239があれば核兵器を10個くらい製造することができるであろう。

 

(4)技術伝承が途絶えた

発電用の原子炉は設備が多岐にわたり、システム全体は大変複雑である。原子炉ごとに設備の仕様が少しずつ異なり、運転操作や保守管理の在り方も異なる。原子炉に関する技術情報をベテランから次世代の人材に引き継ぐことは非常に重要である。

 

しかし、「もんじゅ」では1995年4月に初臨界を達成してから1年半後の1995年12月にナトリウム漏洩事故が起き、運転を停止した。2010年5月に運転を再開したものの3ヶ月後に炉内中継装置の落下が発生。それ以降、「もんじゅ」は2016年6月現在、停止したままである。

 

要するに、ナトリウム漏洩事故の後、3ヶ月間運転しただけで、20年以上も運転の実績がほとんどゼロである。技術伝承が機能するためには、原子炉が順調に稼動することを経験し、途中にある定期検査から技術を学習すること等の現場教育が重要である。残念ながら、稼動実績がほとんどない施設では特殊な技術を後輩に伝承することは不可能に近い。

 

すなわち、技術伝承がうまく行かず、人材育成が途絶えてしまったようだ。これは危機的な事態である。

 

技術伝承が失敗したことによって起きたのがチェルノブイリ事故である。チェルノブイリ原子炉は制御棒の構造が特殊であったため、低出力での運転が禁止されていた。禁止される理由を初期のオペレーターは理解していたが、時の経過とともに禁止理由が正しく伝承されなくなった。

 

1985年4月26日、オペレーターがやってはいけない低出力運転をしばらく行った後、原子炉を停止するために制御棒を挿入したところ、原子炉が暴走し、史上最悪のレベル7の原子力事故が発生した。

 

結論

科学的成果を出すことができないまま、「もんじゅ」を廃止することは、誠に残念であるが、止むを得ない。決断の時期である。

 

雑感

私が「もんじゅ」を最初に見学したのは初臨界の直前であった。学友のI君が、臨界になると内部に入ることが難しくなるから、その前に見学することを勧めてくれた。その当時、関係者は夢を実現することへの期待に満ちて、輝いていたと思う。

 

「もんじゅ」の格納容器の中に入ってまず感じたことは、非常に大きいことであった。大型クレーンが建物の中で長いアームを伸ばしていた。それ程大きな格納容器であることの理由(ループ型炉)はずっと後になってから知った。

 

液体ナトリウムが流れる太い配管が大蛇のようにクネクネと曲がっていることに違和感を覚えた。熱衝撃を避けるための工夫との説明を受けた。

 

2回目の見学はナトリウム漏洩事故の後。綺麗に後始末がされていた事故現場を見せてもらった。現場から、漏洩していた状況を想像することは難しかった。開業して間もないのに、鉄扉や壁のペンキが剥げ落ちている箇所が目につき、やや寂しい思いをしたことが思い出される。

Feijoa

 

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